時代小説が好きPART12
今手元に2冊の本があります。
一つは「波濤剣(はとうけん)」(上田秀人著 徳間文庫)、もう一つは「江戸切絵図散歩」(池波正太郎 新潮文庫)
「波濤剣」は「龍門の衛」から始まり、「孤狼剣」「無影剣」に続くシリーズ第4作。南町奉行所同心から将軍家(九代家重)見聞役に転じた三田村元八郎の八面六臂の活躍を描く痛快時代小説。

上田秀人の作品の醍醐味は、書くときりがないので、興味のある方はカテゴリーの「本」をみていただくとして、今日は別の味わい方をご紹介したいと思います。
江戸切絵図散歩は、ご存知大御所池波正太郎の作品と切っても切れない江戸の街並みについて書かれているユニークなエッセイ。これに当時の江戸の切絵図、今風に言えば東京区分地図が書かれている。
幕府御家人でありながら下級役人である三田村元八郎は、日本橋平松町に長屋住まい。大家は富沢町の履物問屋但馬屋(たじまや)。第一章に間借り住まいから小石川伝通院裏にある亡き父の残した隠居所に引っ越すくだりがある。
「富沢町の前、大門通りを北にすすみ、和泉橋で神田川を渡って川沿いを左に進めば、林大学頭(はやしだいがくのかみ)の屋敷が右手に見えてくる。湯島聖堂、昌平坂学問所と一つになった幕府の官学である。・・・さらに川沿いを進むと前方にひときわ大きな屋敷が見えてくる。十万坪という広大な敷地をもつその屋敷の主は水戸徳川三十五万石の上屋敷である。・・・その水戸家の上屋敷にそって曲がれば、かって順斎(元八郎の父親)が隠居後の生活の場として建てた家までは近い。」
こういうところを「江戸切絵図散歩」にある切絵図でなぞってみるのである。
すると上田秀人が書くとおり、富沢町、大門通り、和泉橋、神田川と目印をなぞることができ、水戸殿と書かれた大きな屋敷にたどり着くことができる。
宝蔵院一刀流の達人、将軍家見聞役三田村元八郎になった気分にひたれるのである。
時代小説の醍醐味、こんな味わい方もできますね。時代小説ファンの方、試してみられたらいかがでしょう。
