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そばと落語 PART3 「疝気の蟲(せんきのむし)」



いずれも江戸時代の初めころに流行り出したというそばと落語。

そばが今のように細く切られて食べられようになったのは江戸時代の初めころのことなら、今のように噺家が寄席で客に機知にとんだ「落とし噺」を聞かせるようになったのも、やはり江戸時代の初めごろのことといいます。「落とし噺」だから「落語」というようになったのだと。

新しいもの好きの江戸人は寄席に入って落語を楽しんだあと屋台の蕎麦屋に立ち寄って、一杯ひっかけつつそばをすするのを何よりの楽しみにしたのでしょう。

落語がお好きな方はご存じでしょうが、落語にはそばが出て来る噺が多くありますね。そば道を極めるには落語についても知識を深めることが求められるのではないかと考えました。有名な「時そば」は、皆さんご存じでしょう。どうしてもそばの大食い競争の懸けに勝ちたかった大食いの清兵衛が出てくる「そば羽織」も、有名な演目ですね。

今日は、もうひとつ「落語」に出て来る「そば」の話を取り上げておきましょう。「そば」が大好きという虫の話。そばを栽培していてそばの若芽が大好きという虫には出会ったことはありますがね。人間様が食べるそばが大好きという虫なんているのかと思ってしまいそうですけで、そこが落語の面白さというものでしょう。

その前に普段我われが何気なく使う「虫」という漢字。地面を這ったり羽を持っていて空を飛んだりする皆さんよくご存じの「虫」のことですよ。この「虫」という漢字は、もともとは「蟲」と書くということご存じでしたでしょうか。私なんかは「虫」の複数形かと思ったくらいですが…。
阿辻哲次著『遊遊漢字学(阿辻哲次著 日本経済新聞出版本部)』で、「虫」は鎌首を持ち上げたヘビをかたどった象形文字だと書かれています。すなわち「虫」は「蛇」のことだと。私たちが認識している一般に昆虫のことをさす「ムシ」は、「蟲」と書いたのだと阿辻先生は教えてくれています。

文字を一目見るだけでそれが何を意味しているかたちどころに分かる表意文字漢字は、世界に類を見ない優れた文字ですが、一文字一文字に意味を持たせたがゆえに文字数が膨大な量になってしまった。また字画も多いもので二十画・三十画、中には五十画以上にも及ぶものが出現するに至った。「蟲」は「虫」を三回書かなければならない。面倒だ。そこで同じ「チュウ」と発音する「虫」と書いて間に合わせたというわけです。

同じく『遊遊漢字学』で、阿辻先生は「庚申(こうしん)」という漢字を取り上げています。「庚申」とは、甲・乙・丙で始まる「十干」の七番目の「庚(かのえ)」と、十二支の「申(さる)」とが組み合わさった日のこと。

旧暦で六十日に一度回ってくる。中国の道教の教えによれば、人の体内には三匹のけしからん虫が住みついていて、「庚申」の夜になると、人が眠ったあと口から抜け出して天に昇り、天帝にその人の悪口を言って、再び戻って来るのだとか。

天帝に自分の悪口を告げられてはかなわないですよね。そこで昔の人はどうしたか?眠ってしまうから、よからぬ虫が動き始めるのだろう。一晩中起きていればいいじゃないかというわけで、庚申の日になると仲間たちが一堂に集まって、徹夜で飲み食いをして過ごしたというのです。そしてその集まる場所のことをやがて「庚申堂」というようになったと。

また阿辻先生は、飲み食いの他に徹夜で過ごす方法について言及しておられます。言わずとも知れよう、夫婦で朝まで布団の中でしっぽり過ごすことだと。しかしこの方法は、庚申堂に一堂に会するという村の団結を乱すことになりかねないので、心しなければならないとも。なるほど、夫婦仲は良くなっても村八分にされちゃあたまらんか?

あっ、夫婦仲の良し悪しを書こうとしているのではありませんでした。そば好きの「蟲」が出て来る落語があるということをお話しようとしているのでした。話を本題に戻します。

おそらくこの「庚申」伝説からきているのではないかと、「故事・伝承、民族・風俗学者」(←私のことです)は睨んでいるのですが、阿辻先生のようにしっかりと資料を検証して発表なさった学説とは違いますから、まったく定かではありませんが。

またまた話のオチまで言ってしまうことをお許しください。
夢で変な「蟲」に出会った医者、つぶそうとすると「蟲」が口をきいた。自分は疝気の「蟲」(せんきのむし)であると。人の腹の中で暴れ、筋を引っ張って苦しめているのだが、自分は無類のそば好き。しかし唐辛子はいけない。これに触れると体が溶けて死んでしまうと。そばに唐辛子はつきもの。唐辛子が入ってきたらどうするのだと尋ねると、「蟲」はこう言ったのであった。その時は唐辛子が及ばない男のふぐり(陰嚢)に逃げ込みますと。

翌朝夢から覚めた医者の元へ、疝気に苦しんでいる人から往診の依頼が入った。医者は夢で「蟲」から聞いたことを早速試めしたというのですか、まったくいい加減な医者もあったものです。疝気に苦しむ患者のお内儀に、旦那にそばの匂いをかがせながらその目の前でそばを食ベルようにと言う。疝気の蟲はそばのにおいにつられて旦那ののど元まで顔を出す。そばを食べているのがお内儀であることを知った蟲は旦那の口から飛び出して、そばを食べているお内儀の体内に飛び込んだ。たちまち苦しみ出すお内儀に、医者は唐辛子を食べろという。

入ってきた唐辛子に驚いた疝気の「蟲」は、一目散に腹を下って、安全な場所へ逃れようとする。しかし女性であるお内儀の体内に逃げ場を見つけられず、そこで噺家は疝気の「蟲」になりきって、首をひねったり、キョロキョロ見まわしたり…。「お後がよろしいようで」と噺家は退場する。

ふ~む、それでそばには七味唐辛子がつきものだったのか。これからは、ちょっと多めにかけようっと。


いったい落語にはそばが出て来る噺はいくつくらいあるのでしょうか。そばを極めるには、どうも落語にも精通しなければならないようです。





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そばと落語PART2「そば羽織」


そばが今のように細く切られて食べられようになったのは江戸時代の初めころのこと。新しいもの好きの江戸の街で、当時そば切りと呼ばれたそばは大人気の食べ物であったとか。ではそれまでそばはどのようにして食べられていたかというと、むき実のまま煮てお粥のようにして食されていたということです。これは何といっても日本は瑞穂の国、米の影響が大きかったということでしょう。米は挽いて粉になどはせず、粒のまま煮たり炊いたりして食べますからね。

そば切りが食べられるようになった当時の江戸の街で、もう一つ江戸の町民に人気があったのが落語。ご承知のように落語はオチが命。機知にとんだオチ(サゲともいう)で噺が結ばれる。オチがあるから「落とし噺」、ゆえに「落語」と呼ばれるようになったのが、やはり江戸時代の初めごろのことといいます。

新しいもの好きの江戸人は寄席に入って落語を聞いたあと屋台の蕎麦屋に立ち寄って、一杯ひっかけつつそばをすするのを何よりの楽しみにしたのでしょう。

落語がお好きな方はご存じでしょうが、落語にはそばが出て来る噺が多くありますね。そば道を極めるには落語についても知識を深めることが求められるのではないかと考えました。昨日は有名な「時そば」をご紹介しましたが、今日は「そば羽織」。どうしてもそばの大食い競争の懸けに勝ちたかった大食いの清兵衛が出てきます。

うわばみが人を飲み込んだ後に、「蛇吟草」という野草を舐めると、たちまちのうちに膨らんだ蛇の腹がへこんだという。ひそかにその「蛇吟草」を携えて大食い競争にのぞんだ清兵衛。そばを腹いっぱい食って、その「蛇吟草」をひとなめ。またそばを食おうとすると清兵衛がたちまちのうちに消えて、そばが羽織を着て座っていたというオチ。

話のオチまで書いてしまうとはなにごとだと、お叱りを頂戴しそうですが、皆さんご存じの落語だから、お許しください。

でもたとえこうやって最後のオチまで書いてしまっても、文字にしてしまえば実にくだらぬ話。「ふふん」と一笑にふしてしまいそうです。しかし、これが志ん朝や談志が高座で演ずるとなると、笑いもさることながら、「う~ん」とうなったきり、しばらく席を立つことさえままならなくなる。志ん朝や談志はすでに鬼籍に入られて久しいですから、今となっては生で噺を聞くというわけにはいきません。誠に残念なことであります。

いったい落語にはそばが出て来る噺はいくつくらいあるのでしょうか。落語もまた細くて長いそば同様、奥が深そうです。





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「二八ちそば」


「そば」について語ろうとするとき、どうしても「二八そば」を省略することは出来ませんね。
なぜ「そば」の頭に「二八」とつくのか。所説いろいろある中で、そば粉とつなぎの小麦粉の比率からきているというものと、当時のそばの値段十六文からきているというものが最も有力であろうことは、素人目に見ても容易に想像できます。

まず、そば粉とつなぎ粉の比率節から。
『蕎麦辞典』(植原路郎著 東京堂出版)によれば、「つなぎに小麦粉を用いることを知ったのは、寛永年間奈良東大寺へ来た朝鮮の僧侶元珍という説がある」と書いてあります。それまでは、生粉(そば粉だけのことをさす)で打っていたと思われます。

「小麦粉はそば粉よりも原価が高かったという今日とは逆の現象だったので、小麦粉の使用に考えが及ばなかったのであろう」とも書かれています。日ごろ麺の製造に携わっている私から見ても、なるほどもっともなこととうなずけます。

さて寛永年間といえば、1624年から1644年までの20年間。家康が江戸に幕府を開いたのが1603年、秀忠に将軍を譲り駿府に隠居したのが1605年のこと。その秀忠のあとを受けて家光が三代将軍についたのが1623年。それから1653年までが家光の時代ですから、まさに家康から三代経て、もはや徳川に弓槍を向ける者がいなくなった時代に、広くそばが食べられるようになったことがうかがえます。

需要が増加すれば供給を増やさなければならないのは、江戸時代にあっても経済の大原則。そば粉だけで打つそばは、どうしても生地がつながりにくくボソボソと切れやすい。小麦粉をつなぎに用いれば、小麦粉のグルテンの作用でしっかりとつながる生地になる。生産効率の面からも見ても理にかなった打ち方と言えるわけです。

そこで小麦粉二、そば粉八の割合でそばを打つと、上手に打てる。これが「二八そば」と呼ばれる所以というわけです。

ところが「二八」という文言は、そばだけに限らずうどんにも使われており、「二八うどん」というものがあったという文献も散見されるということですから、小麦粉だけを使って打つうどんのことを考えると、そば粉とつなぎ粉の比率説は、根拠を失ってしまう。

やはり、「二八の十六文」の値段説ということになるのでしょうか?




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蕎麦屋のお品書きからPART5


「月見そば」「天ぷらそば」「鴨南蛮そば」と見てきました。昨日は「にしんそば」も調べてみました。今日は「おかめそば」にしましょうかね。


「おかめ」は古くから日本に伝わる仮面のひとつ。丸顔におちょぼ口、低い団子鼻がちょんと真ん中についていて、ふっくら膨らんだ両の頬に赤い頬紅をさしている。
この仮面をそばが盛ってある丼の中で食材を用いて再現したのが「おかめそば」。

『蕎麦辞典』(植原路郎著 東京堂出版)には、「おかめそば」が挿絵付きで紹介されています。目で見るとなるほど、「おかめ」とよくわかります。「蝶形に真ん中を結んだ湯葉を両の目、鼻は三つ葉(または松茸)で、蒲鉾を頬に、口は椎茸が基本」と説明してあります。

幕末のころ、「上野池之端に近い七軒町のはずれに太田屋という蕎麦屋があり、そこの何代目かが創案したもの」と書かれているところをみると、「おかめそば」もまた「天ぷらそば」と同じように、比較的新しい種物のそばであることがわかります。







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蕎麦屋のお品書きからPART4


「月見そば」「天ぷらそば」「鴨南蛮そば」と見てきました。そこで今日は「にしんそば」。

「にしんそば」は、かけそばの上に身欠きニシンの甘露煮をのせたものと言ってしまえば簡単そのもの。主に北海道や京都府の名物料理です。

かってニシンで御殿が立ったと言われた北海道で、さかんに振舞われるというのは理解できますが、京都まで飛んでしまうのは腑に落ちかねます。しかしこれは北前船のことを思いだせば、すぐに納得できるというもの。

北海道で豊富に獲れるニシンや昆布などの海産物は、北前舩に積まれて天下の台所大阪へ送られた。一方海から離れた京に住む人々は、新鮮な魚を口にする機会にはなかなか恵まれない。大阪から淀川をのぼって運ばれてくる身欠きニシンは、貴重な魚として重宝されたことは想像に難くありません。若狭から送られてくる塩サバにしても、この身欠きニシンにしても、日持ちのする塩干物。これを上手に使ったことがうかがえます。

これらを利用したバッテラと呼ばれるサバの棒寿司や、この身欠きニシンの甘露煮には、昔の人があみ出した巧みな調理法が凝縮されているといえましょう。

「蕎麦辞典 (東京堂出版 植原路郎/著)にも「海に縁のない京の地で、鰊に目をつけたのは知恵である」と書かれています。






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